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vol.2 曲げ木の椅子が生まれるまで

vol.2 曲げ木の椅子が生まれるまで vol.2 曲げ木の椅子が生まれるまで
150年以上前から伝わる曲げ木の技術を今でも大切に守り、

150年以上前から伝わる曲げ木の技術を今でも大切に守り、 普遍的なデザインの椅子をつくり続ける一方で、新たな伝説となる革新的な 家具を発表しさらに注目を集めるTON社の工場を訪問しました。
歴史を感じさせる工場で見た伝統の技術と堅実なものづくりを紹介します。

曲げ木チェアを発明したトーネットの功績

 ミヒャエル・トーネットが世界で最初に曲げ木のチェアを発表したのは、今からおよそ180年前の1836年のこと。当初の作品は、薄い板状の木を何枚か重ねて積層材をつくり、それを曲げて仕上げたボッパールチェアと呼ばれる椅子でした。それから5年後の1841年、曲げ木の製法で特許を取得。それを機に曲げ木の技術を各地で披露し注目を集めます。

 そんな彼の技術にいち早く目をつけたのはウィーンにある「カフェ・ダウム」の女主人でした。彼女はカフェのすべての椅子を、まだ有名とは言えなかったトーネットにオーダーします。翌年、取得した特許権はすべて息子に譲り、生まれ故郷に建設した工場、財産、名声の全部を手放し、曲げ木の椅子の製作にすべてをかけるため、ウィーンへと移住したのでした。それから7年の歳月を経て、1849年、遂に、のちの世界的ベストセラーNo.14の原型ともいうべきNo.4を誕生させたのです。

 しかし、トーネットの功績は美しくて軽い丈夫な椅子をつくっただけではありません。製品をパーツごとに造り、あとで組み立てる、当時は誰も発想しなかった„ノックダウン方式“を生み出したのも実はトーネットでした。この画期的な製造法によってローコストと大量生産が可能となり、曲げ木椅子は一気に普及することとなったのです。

1. プラハから車で約3時間。緑に囲まれた広大な敷地の中に、本社機能と巨大な工場があります。本社に掲げられた幕を飾っているのは、2011年に発表された創業150年の記念モデル。まったく同じ形をした2本の曲げ木と座面の3つのパーツだけで組み立てられた次代の名品となるべき作品。
2. ハウススタイリングでも取り扱っている製品と同デザインの椅子。研磨は手触りを左右する重要な工程なので一段と丁寧な技術が要求されます。
3. 赤ちゃんを背負うひもと棺桶に打つ釘と代表作のNo.18を組み合わせたオブジェは、ゆりかごから墓場までTON社の製品はいつもそばにありますというような意味をもちます。
4. 国営時代の看板には、曲げ木家具工場国営企業団体第7運営部との表記が。下段の赤文字は家具開発の意味。

激動の時代を経ても残った 伝統技術

 発売から40年間で5000万脚もの数を販売したとされるNo.14のヒットにより、トーネット社は、ヨーロッパ全土にどんどん工場を増やしていきます。1861年には、現存する曲げ木工場としては最古となる、チェコ工場が創業を開始しましたが、第一次世界大戦をきっかけに経営は傾き、多くの工場は合併や買収を余儀なくされました。しかし、幸いにしてチェコ工場は国営ではなかったものの国の傘下となって保護されていたために、技術や機械などはそのまま残され、国が共産主義に支配されていた1953年、TONに改名し、現在に至ります。ちなみに、TONという社名はチェコ語の曲げ木家具工場(TovarnynaOhybany Nabytek)の頭文字からとったもので、前ページの古い看板にも記されています。

   さて、現在この工場では、およそ850人のスタッフが働いており、そのほとんどは工場近くに住む地域住民。工程ごとに熟練者と訓練者がペアになり、技術の伝承を行いながら作業を行っています。もともとチェコには肥沃な森林と河川が多く、良質なブナ材が生育する環境でしたから、曲げ木の椅子をつくるに最適な条件がそろっていたことも発展の理由のひとつです。

   椅子が完成するまでの工程を簡単に見て行くと、まずは伐採後、角材にした木を含水率や色ごとに分類して乾燥することから始まります。椅子のデザインによって使用する角材の長さはまちまちですが、一番長いものは約3mでロッキングチェアやコートハンガーに使用されます。次に、角材を必要な長さに切ったり削る作業に移り、その後いよいよ曲げ木の工程に入ります。前述のように、この工場で行われている作業は、機械化が進む現在も多くが手作業。約2時間かけて蒸した木を取り出し、やわらかなうちに手で曲げながら型にはめていくという、トーネットが最初に行った曲げ木の技法を、そっくりそのまま応用しています。その後、再び乾燥させ塗料に漬け込み着色、研磨、組み立てを経て完成した椅子は厳しい品質管理を終えて世界中の消費者に届くのです。

 こうした工程を垣間みるだけでもTON社の製品へのこだわり、丁寧なモノづくりの姿勢がよくわかります。時代を超えても残る伝統技術が、確かにここで守られていました。

5. 老朽してもなお残る1861年の創業時に建てられた工場の2階部分。現在は組み立て前の曲げ木の乾燥庫として機能しています。スタッフの休憩用の古い椅子も絵になります。残存するレンガの建物は現在2棟。乾燥庫のほか、縫製作業を行う工場として現在も使用されています。
6. 蒸し器から取り出され、木がやわらかいうちに曲げられている、まさに曲げ木の瞬間。蒸し器から取り出しておよそ1分20秒前後で曲げ木の工程は終了。通常は2人で行いますが、熟練者がひとりで行うケースもあります。
7. ノックダウンを顕著に物語る部材テンプレート。パーツごとに細かく管理され、この見本通りにそれぞれの担当者が切ったり曲げたりを繰り返します。
8. こちらは板状に切られた木材を機械で曲げる工程。テクノロジーの発達によって、手作業では曲げることの困難な厚みや大きさの木材も同じクオリティを保ちながら加工できるようなりました。大きいだけでなく、逆に繊細なパーツも手作業では難しい微妙な力加減を機械がコントロールしてくれるので、デザインの幅も広がっているのだそう。

Aから:乾燥した角材を機械によって削り、このあと蒸し器に入れられます。蒸し器を開けてすぐに水をかけて一時的に冷まし、蒸気がある程度おさまるまで少し待ちます。取り出してからはアッという間。トーネットが考案した金型に木をはさんで曲げていきます。型からはずされたあとは築150年の倉庫で、組み立てを静かに待ちます。

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